【御越年式について】

次第と経過は【行事の解説】の項ををご覧下さい。

I.

御越年式は、本堂北東にある「御供所」で執り行われます。明治政府による「神仏分離令」が出されるまでは、本堂裏(現在の歴代上人廊所)に「年神堂」がありました。明治12年1月、年神堂の祭神「健御名方富命彦」(タケミナカタトミヒコ)は城山に移され、県社(水内社)となりました。同じく健御名方富命彦を祀る諏訪大社の縁起には「諏訪神が丑三時に善光寺に舞い降りて、本堂裏の扉を開けて入り、仏に仕えて後、明け方帰っていく」と御越年式と諏訪社の伝説の結びつきを伝えています。

II.

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越年式の夜は、寺中一切の鐘を打たず、山内人払いし、周囲の町は戸をおろし、明かりを消し、往来を慎むという古例は現在にも伝えられ、当夜、境内の明かりは自動販売機も消され、門前元善町では区長からも午後8時以降の消灯を回覧板を通じて各家庭に伝えられます。
古代の人々は、神が降臨する夜は、司祭者に神をゆだねて、一般の人は家の中に潜んでいた習俗がありました。このことからも堂童子行事が善光寺草創の時代までさかのぼって伝承されていることが伺えます。

IV.

御越年式で堂童子は、前3ヶ年の準備期間を経て、司祭者としての心構えを整えて、諸仏諸神の降臨を願い、天下泰平、諸人安全長久、五穀豊年、火難九難除滅などを古例にのっとり祈願します。
その所作、清浄戒伝法は口伝秘儀であり、中衆一族の相続者のみに伝えられています。このために相続者は古くから、他から養子を迎え入れず、中衆間の往来に限られる血統相続が厳しく守られています。

V.行事中の装束「浄衣」について

白麻で仕立てられた狩衣型の衣に、白麻の括り長頭巾をいいます(長野県民族資料調査報告書7『善光寺正月行事』)。
この浄衣は、正月行事中、御越年式と一日元朝の朝拝式、七草会の3回着用します。
また、堂童子は朝拝式から15日間本堂に参籠している間、朝事、修正会、七草会等の法会には、衣は白麻仕立長素絹に、同じく白麻の括り長頭巾を着用します。

この「浄衣」を東大寺二月堂修二会(お水取り)での堂童子装束と比べてみると、東大寺堂童子は、袴は膝から下を絞った裁付袴(たっつけばかま)であるのに、善光寺の浄衣は袴の裾を括りも絞りもしないことと、頭巾は、東大寺が山伏の額兜巾(ひたいときん)であるのに、善光寺は括り長頭巾であることの2点に違いがあるのみであることから、善光寺・東大寺の堂童子とも同じ装束をつけて、ともに寺の最重要行事を執行している(五来重『善光寺まいり』)のは興味深いことです。

VI.

越年式には全国の精霊・祖霊が境内に集まる。
故・五来重氏は、善光寺御越年式について、
「この夜は日本中の精霊や祖霊が集まる霊場としての善光寺信仰が如実にみられる。したがって善光寺境内には、目には見えないけれども、木の根元や梢、石塔、燈籠の陰などに精霊が潜んでいて、三界万霊の充満した世界が現出されている(『善光寺まいり』)。と述べている。

Vll.

今年の御越年式を無事終えて、長期に渡る堂童子行事の中での大きな山を一つ越えたようなさわやかな心境です。天気予報では当日夜半は雨。夕刻には冷たい霧雨にも見舞われて心配されましたが、夜になって回復し、四門固めのときには、気温は下がり気味ながら、式の進行をご加護下さるように月が顔を出し、行く手を照らしてくれました。

「月かげの いたらぬ里は なけれども
  ながむる人の 心にぞすむ」(法然上人)

ありがたいことでした。

秘儀の直前の様子

御からこ搗きの供物

四門固め

由緒正しい(?)胴上げ

一夜明けた17日朝の早春を思わせるような澄み渡った青空を仰ぎ見て、来るべき新世紀こそ、この青空のようにすがすがしい世の中であって欲しいと願うこと切なる思いであります。今後ともよろしくお願いいたします。

VIII.

御越年式に使用した用具の中で、調達された年の銘が入っているものは次の通りでありました。

・御神酒錫徳利一対
  「弘化四丁未(1947)九月 寄附之 東叡山津梁院大僧都慈廣」

・土器盃三ツ重ね「嘉永三庚戌年(1850)極月」

・追儺豆撒き桝「嘉永元戌申歳(1848)御越年の御豆 行者道満調」

・ 同 桝の木箱「元治紀元申子年(1864)晩冬 下浣調之」

・九谷焼御神酒徳利一対
  「明治十三年庚辰(1880)十二月 行者野村坊海満」

これ等の堂童子用具は、昭和42年11月に「長野市文化財」に指定されています。

『長野市の文化財』長野市教育委員会 参照

(目次右の【行事の解説】と対照してご覧下さい)


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