胴上げ

世界大百科事典(平凡社)より

おおぜいの人が1人の身体を横にかかえて空中に布く投げ上げること。
〈胴に上げる〉〈胴に突く〉〈胴を打たす〉ともいう。

今日ではスポーツ競技での勝者、結婚式での新郎、入学試験の合格者などを祝福して行われる。江戸時代には12月13日の媒払いや節分などに御祝儀といって女中を胴上げにしたり、年男を胴上げにする風習があり、また江戸城の大奥でも煤払いの夜に中年寄や御中臈が仲間から胴上げにされることがあった。胴上げは祝福のほか.制裁としても行われ、〈好色一代男〉には新参の入牢者を胴上げして地面に打ちおとす場面が出てくる。

日本以外でもイギリスのリバプールなどでは、18世紀末までイースター・マンデー〈復活祭の月曜目〉に男が女を胴上げにし、翌日は女が出会った男を胴上げにしたといい、またシベリアのロシア人は、送別会の際に最高の敬意を表すために送られる人を胴上げにしたという。

胴上げは手車や肩車と同様に、足を地面に触れさせないことに意味があり、非日常的な神聖な状態にあることを示す行為とされている。神事で新たに頭屋となった者や厄年の者、前年に結婚した者を正月などに胴上げにする風習は各地にみられた。またドウブルイといって、参詣、祭り、年祝などの後の精進落しとして行われる行事も、胴上げに関連するものと思われる。

信州善光寺では御越年式の最後に堂童子の胴上げがあり、この後はじめて堂内の鐘太鼓が打ち鳴らされ、堂内のすべての扉が開かれるという。胴上げは、日常と非日常、旧年と新年、この世と異界といった二つの異なった世界 く身分.地位.時間.空間など〉 の境界で行われる移行儀礼とみることができるであろう。(飯島良晴)


江戸商家の煤払い風景。図の左上、年男が胴上げされている。(東都歳時記より)