胴上げ

日本民俗大辞典 吉川弘文館

多人数が、一人の人を頭上高く持ち上げ、横にして、そのまま幾度となく空中にその人物を投げあげること。当該人物は空中に舞い上がることになる。その人物に対する、周囲の人々の祝福の意が込められた行為であることが一般的だが、ごく稀に懲罰的な意味合いを込めて胴上げが行われることもある。胴揚げとも書き、江戸時代には胴突きなどとも称された。元来は、すぐれて神事と密接に関連した儀礼・行事であった。
殊に日常的な状態から非日常的な状態への移行に際して、文字通りケジメをつける意味あいをもって、胴上げが行われた例は暇がない。江戸時代、新年を目前にした歳末の十二月十三日に煤払いをした後、その家の主人や女中を胴上げしたり、節分に際して年男を胴上げしたことなどは、その最たる例といえよう。
この行事においては、胴上げされる人物の足が地に着かないことが重要である。すなわち、その人物の足が宙に浮いている状態をもって、ケの状態からハレの状態への推移を人々は実感したのである。そうした点、足が地に着かない肩車などとの関連が見出せる。
現在、野球などさまざまプロ・アマのスポーツで優勝の瞬間に監督や立て役者を胴上げする習慣があるが、これにも勝者への祝福、勝利の喜びを分かち合う意とともに、戦いの連続というケの状態から、祝祭というハレの状態への移行のための儀礼の意が、無意識のうちにも込められているものと思われる。

参照 柳田国男「肩車考」筑摩書房