お備え搗き

 十二月二十一日に行うことになっていて、お餅搗きともいう。正月如来前へお備えするお飾り餅を作るのである。

 前日寮房を仲間中へ本日のお備搗きのことを触れ廻せるほか、準備はおからこ作りと全く同じで、異なる点は大きなのし板に台足を付けておくだけである。

 当日また御供所道心を使にして、仲間中へお備搗きのことを告げる。八時頃仲間一同が堂童子の坊に参集すると、古例によって大平、壷、飯、汁の本膳であるが、中割に十日の白酒を出す。食事の終りにこげ湯といって、湯桶にこげたおにぎりを入れた湯茶を出すのが古来からの仕来りである。

 食事の後、堂童子以下順次風呂に入って沐浴し、おからこ作りの時と同様、当役、後住、臈僧、又後住の四人で数多搗きを行う。この時も女人禁制で、御供所道心によって注連張の御座敷に運ばれ、台上のお備輪(大小五個あって、大は径一尺四寸四分、最小は八寸のまげ物)の大の方から順次搗餅を詰め入れ、終わると残り分の搗餅で大小二個のお飾りを作る。大の方は御供所の大黒天、小は同所の本尊のお飾りである。

 お餅搗きとお備作りが済むと、香炉を据え、その前に堂童子を中心に後住、又後住が位置し、臈僧は脇に介添として座し、祈念三礼してお備搗きを修了する。

【お煤払い】

 古くは御煤取りともいったようで、今はお煤払いと称している。

 十二月二十七日、堂童子は御供所の道心に仲間中へ明日お煤払いである旨を申し触れさせ、寺男に青竹二間から二間半位に切らせ、藁を先に結い付け、火打注連と小松を付けた箒を作らせ、同日夕刻までに内陣西連子窓下に届けさせる。これを洒摩(しゃま)という。

 二十八日御朝事後、堂童子は御供所に入って浄衣に改め、後住は白無垢、黒衣、折五条、道心は黒衣で本堂に上る。この時後住は西連子窓下の洒摩の竿を本尊正面の塵除けの左脇に立て直す。堂童子、後住と院代、奉行と挨拶の後、先ず院代が立って、祈念の後、洒摩の竿を取って本尊を三度、観音、勢至を各三度、戸帳の上を上下になでる。続いて堂童子も立って礼拝祈念の後、洒摩を取って弥陀、観音、勢至を各三度払って、一礼があってお煤払いの儀を終る。

 本尊のお煤払いの儀が済むと、堂童子は正面向拝に出て、道心は洒摩をとってこれに続く。堂童子は後住、道心を従えて大勧進におもむき、玄関から冨士の間に入るが、ここで洒摩を道心から受取り、後住と共に奥に入り、院代(別当代)が出座すると堂童子は洒摩を院代の頭上に捧げ三度上下して戴かせる。これが済むと三つ組木盃で御神酒を呈して祝儀を行い、配膳があって、礼のように三種三献があって納盃後床にそなえた初穂料を請け取り堂童子、後住と共に道心を従えて退出する。続いて大本願に行き、表書院で大勧進で行ったと同様に執事に洒摩を戴かせ、終ると三つ組木盃で執事に進盃があり、配膳の後三種三献の儀を行う。

 祝儀後堂童子は自坊に引取り、本堂内では大掃除が堂奉行、中衆によって行われる。瑠璃壇は堂奉行、三卿の間、内陣は中衆等の分担である。この大掃除には中衆の臈僧は加わらず、御供所で専ら料理を受け持ち、中衆一同の昼食の用意を行うを例としている。大掃除が終ると、中衆は三々五々御供所に帰り風呂で塵埃を落し、一同揃ったところで昼食となる。

【お備台作り】

 お煤払いが済むと、堂童子と後住は本堂に上り、十二月晦日本尊前に供える台作りを行う。両人は内陣の西窓下にお備台を据え、天板の上面を杉原紙で張り詰め、四方の板縁から紙を垂らした形に仕上げる。

【お松立て】

 十二月三十一日の朝、御供所道心を中衆中へ廻らせ、お松立の祝儀に上るよう申し触れさせる。朝、出入職人(現在は事務局職員)によって、本堂の左右の向拝柱に一本松を発て新縄で上から七・五・三巻にし、いわゆる七五三になるようにし、縄の結び目を正面に出す。

 これに先立って、堂童子は内陣の西窓下で後住に手伝わせ御備飾を行う。丸輪の付いたまま、大きな物から順に重ねて五重とし、最上のお備えの上に、白米、小豆、大豆、銀杏、栗、がやの実、胡桃を杉原紙に包み、紅白の水引で結んだ巾着袋(福袋)と、豆柄、串柿(三本位)、昆布を杉原紙で束ねて水引をかけたものを載せ、手前に裏白を敷いて橙一つをおく。これをお備台に載せ、瑠璃壇の西に運び、台家の堂奉行はこれを受取り、瑠璃壇の階の東脇に据える。

 堂童子は直ちに向拝のお松を検分祈念して、仲間一同と大勧進に祝儀に赴く。冨士の間でまずおちつきとして出された切餅を火鉢の周りで焼き、味噌、漬菜で食し(今は省略)、食し終ると院代臈僧が出座して行う。堂童子から三つ組一の盃で院代に進盃する。院代からの返盃はない。次いで吸物膳の配膳があって、例の如く三種三献の定式となる。終ると院代から床に供えた洗米を戴き、道心これを受取り一同退出する。

 次いで大本願に到り、直ちに祝儀となる。すべて大勧進と同様で洗米を拝受して退出する。


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